まだ私がLの事を"流河早樹"だと思い込んでた頃。
大学の庭先で、Lを見かけた事がある。
あの独特の座り方で何やら小説のようなものを手にしていた。
彼と話すのが好きだった。
とても頭のいい彼は色々な方法で私を笑わせてくれたりする。
(読書中みたいだし…話し掛けたら邪魔しちゃうかな…)
そんな事を思いながらも、やっぱり少し話したくなって。
私はそのまま踵を翻し、ベンチで読書をしている彼に近づいていった。
「流河くん」
そう声をかけ、隣に座る。
だが、いつもならすぐ優しい笑顔を向けてくれるのに今日は無言のまま、本から顔を上げようともしない。
かなり集中していると、声をかけられても気づかない事がある。
自分でもそう言う事があるので、もう一度だけ彼に声をかけてみた。
「流河くん…?」
そう言って顔を覗き込む。
今まで本の陰になっていて、彼の顔が見えなかったのだ。
が…
「あ…」
膝に立てかけるようにして本を開いていたけれど、当の本人はどうやら夢の中のようだ。
「やだ…寝ちゃってる」
その時、Lはコクリコクリと首を揺らしながら、気持ち良さそうに眠っていた。
春先の、しかもポカポカ陽気だったから、きっと眠くなってしまったんだろう、と私はそのまま暫く彼の寝顔を眺めていた。
何だかLの寝顔が小動物みたいで可愛かったのを覚えてる。
「ふふ…珍しい、流河くんが居眠りなんて…」
薄っすらと口を開けて寝ている彼が可愛くて、自然に笑みが零れた。
その時…
「…?……」
「…え?」
眠ってるはずの彼が私の名をかすかに呼んだ。
てっきり起きたのかと、「流河くん?」と声をかけてみるも、やはり返事はなく。
眠っているのは間違いなかった。
それなのに、どうして私の名前を?
もしかして…夢に私が出ているの?
そんな事を思ったら少し恥ずかしくなった。
どんな夢を見てるんだろう、と再び顔を覗き込む。
彼の寝顔はどことなく優しい表情で、口元がかすかに緩んでいる気がした。
「…きです…」
「……ぇ?」
不意に何かを呟いた。
そして口をもごもごと動かしたかと思えば―
「…っと…私の…傍に…いて下さ…」
「…………」
最初はなんて言ったのか聞き取れなかった。
でも最後の言葉だけはハッキリ聞き取れて、思わずドキっとした。
(傍に…いて下さい、って言ったの…?)
さっきは私の名を呼んで。
今は傍にいて下さい、と言う。
それって何だか彼が私のこと…
そこで慌てて頭を振った。
「まさか…ね…」
ふと浮かんだ想像を打ち消し、私はそっと立ち上がった。
その時、彼の本が地面に落ちて、結局起こしてしまったのだけど…
最後まで、何の夢を見ていたのか聞けなかった。
でも今なら分かる。
やっぱりあの時、Lは…
「何を笑ってるんですか?」
仕事をしているLを眺めながら笑いを堪えていると、彼が振り向いた。
「ううん。思い出し笑い」
「…何を思い出したんです?」
「Lの寝顔」
「はい?」
いつもの座り方でキョトンとしているLを見て、何だかプレリードッグみたい、なんて失礼な事を思っていると。
Lはいつの間にか、私の目の前に来てしゃがんでいた。
「今、私を見て笑ってましたよね」
「え、そ、そんな事は―」
「私、何かおかしいですか?」
少しだけスネたように唇を尖らせ、目を細めるLに、やっぱり笑みが零れてしまう。
でも説明する前に唇はLのそれと重なっていた。
「ん、」
驚いて目を丸くすると、Lはニッコリ微笑んで、
「貴女が楽しいなら、私も何だか楽しいです」
「…そ、そうなの?」
「ええ。これも初めての経験ですが」
Lはそう言って最後にもう一度キスをした。
「好きです…」
「…ん」
「ずっと…私の傍にいて下さい」
「…うん」
そう頷いて、ハっとした。
あの時の言葉と今の言葉が重なった気がしたのだ。
「…L」
「はい」
「…ずっと傍にいてね」
「…もちろん」
あの時の答えが、今、私に届けられた気がした。
【 Hide More 】